コンサル例「マイスリーをやめたい」

今月の相談例で、「数年服用しているマイスリーをやめたい」との相談がありました。

マイスリー(ゾルピデム)は、医療機関で処方される睡眠導入剤です。

ゾルピデムは、超短時間型という効きが早い睡眠導入剤で、入眠障害という寝つきが悪いタイプの睡眠障害で利用される薬剤です。

現在主流で使われる睡眠導入剤は、ベンゾジアゼピン系薬剤といわれる薬剤で、依存性が問題になっていますが、非ベンゾジアゼピン系薬剤は低用量では依存性がないとさえ言われてきました。しかし、低用量で乱用せず指示通り使っていても長期にわたって使用すると依存性があるということが分かり、2017年3月21日に厚労省から使用に関する通達が出ています。

厚労省 承認用量でも漫然投与で依存性 ベンゾジアゼピン系薬等44成分の添付文書改訂指示

承認用量の範囲内でも漫然とした継続投与により依存性が生じることがあるとして、医療現場に注意喚起するため44成分の添付文書を改訂するよう、日本製薬団体連合会に通知で指示した。

~44種の薬剤~
アルプラゾラム(コンスタン錠、武田テバ 他/ソラナックス錠、ファイザー 他)
エスゾピクロン(ルネスタ錠、エーザイ)
エスタゾラム(ユーロジン錠、同散、武田テバ 他)
エチゾラム(デパス錠、同細粒、田辺三菱製薬 他)
オキサゾラム(セレナール錠、同散、第一三共 他)
クアゼパム(ドラール錠、久光製薬 他)
クロキサゾラム(セパゾン錠、同散、第一三共)
クロチアゼパム(リーゼ錠、同顆粒、田辺三菱製薬 他)
クロラゼプ酸二カリウム(メンドンカプセル、マイランEPD)
クロルジアゼポキシド(コントール錠、同散、武田テバ 他)
ジアゼパム(セルシン錠、同散、同シロップ、同注射液、武田テバ 他/ホリゾン錠、同散、同注射液、丸石製薬 他/ダイアップ坐剤、高田製薬)
ゾピクロン(アモバン錠、サノフィ 他)
ゾルピデム酒石酸塩(マイスリー錠、アステラス製薬 他)
トリアゾラム(ハルシオン錠、ファイザー 他)
ニメタゼパム(エリミン錠、大日本住友製薬)
ハロキサゾラム(ソメリン細粒、同錠、第一三共)
フルジアゼパム(エリスパン錠、同細粒、大日本住友製薬)
フルタゾラム(コレミナール錠、同細粒、沢井製薬)
フルトプラゼパム(レスタス錠、日本ジェネリック)
フルニトラゼパム(サイレース錠、エーザイ 他/ロヒプノール錠、中外製薬 他)
フルラゼパム塩酸塩(ダルメートカプセル、共和薬品工業)
ブロチゾラム(レンドルミン錠、日本ベーリンガーインゲルハイム 他)
ブロマゼパム(レキソタン錠、同細粒、中外製薬 他)
メキサゾラム(メレックス錠、同細粒、第一三共)
メダゼパム(レスミット錠、塩野義製薬 他)
リルマザホン塩酸塩水和物(リスミー錠、塩野義製薬 他)
ロフラゼプ酸エチル(メイラックス細粒、同錠、Meiji Seika ファルマ 他)
ロラゼパム(ワイパックス錠、ファイザー 他)
ロルメタゼパム(エバミール錠、バイエル薬品/ロラメット錠、あすか製薬)
クロナゼパム(リボトリール錠、同細粒、中外製薬/ランドセン錠、同細粒、大日本住友製薬)
クロバザム(マイスタン錠、同細粒、大日本住友製薬)
ミダゾラム(ミダフレッサ静注、アルフレッサファーマ)
ニトラゼパム(ネルボン錠、同散、第一三共 他/ベンザリン錠、同細粒、塩野義製薬 他)
アモバルビタール(イソミタール原末、日本新薬)
セコバルビタールナトリウム(注射用アイオナール・ナトリウム、日医工)
ペントバルビタールカルシウム(ラボナ錠、田辺三菱製薬)
フェノバルビタール(フェノバール原末、同散、同錠、同エリキシル、藤永製薬 他/フェノバール注射剤、藤永製薬/ワコビタール坐剤、高田製薬/ルピアール坐剤、久光製薬/ノーベルバール静注用、ノーベルファーマ)
フェニトイン・フェノバルビタール(複合アレビアチン配合錠、大日本住友製薬)
フェニトイン・フェノバルビタール・安息香酸ナトリウムカフェイン(ヒダントール配合錠、藤永製薬)
プリミドン(プリミドン錠、同細粒、日医工)
トリクロホスナトリウム(トリクロリールシロップ、アルフレッサファーマ)
ブロモバレリル尿素(ブロバリン原末、日本新薬 他)
抱水クロラール(エスクレ坐剤、同注腸用、久光製薬)

ゾルピデムは、非ベンゾジアゼピン系に属し、ベンゾジアゼピン系薬剤よりは副作用が軽減された薬剤と言われており、日本だけでなく世界で広く使われています。

服用後15~30分で効いてきて、50分程度で血中濃度が最高になり、2時間程度で半分の濃度になり、6~8時間程度で消えていくので、朝起きる時には薬の眠気が残ってしまう(=持ち越し効果)ことが少ないといわれます。

ご相談内容は、「やめたいと思って飲まずに寝ると、悪夢にうなされて、薬がないと眠れない」とのことでした。

薬剤師は病態に関する診断はできませんが、薬剤の服用状況と訴えからみて、ゾルピデムの依存症と離脱症状にあてはまる可能性が高いという説明をしました。低用量でも長期間の服用(半年以上が目安)されているので、精神的な依存と身体的な依存が生じていると考えられます。

精神的な依存として、飲まないと眠れないだろうという不安感が強まる、イライラ感や抑うつ症状がある、、、、

身体的な依存として、不眠症状が強くなる、頭痛がひどい、、、

悪夢をみるのも、離脱症状の一つでしょう。結果、薬を体が渇望するようになります。

じゃあ、どうやってマイスリーをやめるの?

1.服用量の減量

服用が長期になり、上記のような離脱症状が現れる場合には、自己判断で中止したり、減薬することは大変危険を伴います。

ゾルピデムに限らずですが、処方した医師、投薬した薬剤師の元、慎重に減量していくことが必要です。

具体的には、3/4量や半量に減らして、どうしても眠れない場合には、あと半量飲む。今日は眠れなさそうだなと思う場合には、無理して減らしたり飲まなかったりしない。

とにかく焦らず進めます。

この後、できるだけ飲んでいない日を増やしていけるようにしていきます。

減量に失敗すると、「やっぱり薬がないと眠れないんだな」と思って余計に手放せなくなるので、焦らず、「眠れないこともある、やめるには時間がかかる」ことを理解して下さい。

2.生活習慣の見直し

「眠れない」と訴える方には他の人から見れば、明らかな不眠につながる原因となる生活習慣をもつ方が多くいらっしゃいます。

・日中、テレビを見ながら、うたた寝をしている。5分のつもりが、足してみれば、相当な時間寝ていませんか? 昼寝をすれば、夜眠れないのは当然です。

・運動不足。適度な疲労は心地良い眠りを導くので、日中の運動や、寝る前のストレッチが有効です。

・アルコール。アルコールは睡眠導入作用があり、飲むと眠くなりますが、眠りを浅くします。軽い晩酌程度にしましょう。また、睡眠導入剤や向精神薬との服用は、薬剤相互作用により作用を増強し、副作用の原因になります。また、アルコール依存や薬剤依存を招きます。基本的にはこれらの薬剤とアルコールは飲まない、どうしても飲みたい時には、少量を、誰かと一緒に、飲むほうが良いでしょう。

・スマホ。寝る前のスマホ習慣、テレビは、寝つきを悪くする原因の一つです。内容で興奮を招いたり、ブルーライトで睡眠に影響を及ぼします。

・ストレス。考えなければいけないことはたくさんですよね。ストレスをなくすことは無理ですが、過度なストレスになっていることを見直していきましょう。

私が薬剤師になった10年位前は、「布団に入る30分前に薬剤を服用する」ように指導するように教えられました。しかし、現在は薬も多様化して、新しい睡眠導入剤であるオレキシン受容体作動薬(ロゼレム)、メラトニン受容体作動薬(ベルソムラ)など、30分では効かない場合がある薬剤もあります。

また、布団に入って眠れない状態が長く続くことが、「布団に入る=眠れない」の構図を作り、習慣化してしまうので、眠れないまま、布団で過ごすことは良いとは言えません。私は、「眠りたい時間の30分~1時間前に服用してゆったり過ごし、眠くなったら布団に入りましょう。眠れない場合には、無理に寝ようとせず、布団から出て気分転換しましょう。」と指導することが多いです。(処方される薬剤によって、これに限りませんし、医師からの指示が優先です。)

現在は、非ベンゾジアゼピン系薬剤よりもさらに副作用、依存性が低いとされる、オレキシン受容体作動薬(ロゼレム)、メラトニン受容体作動薬(ベルソムラ)が発売されていて、非ベンゾジアゼピン系薬剤の減量の際に処方されることも見かけます。ですが、これらの薬剤を初めて服用される方には著効を示す場合が多いですが、ゾルピデムなどの超短時間型に慣れている方では、眠くなるまでの時間が長かったり、眠くなるまでの感覚がにぶい、眠れない、となかなか切り替えに苦労している患者様もよく見かけます。

3.これがあると安心する何か

薬に代わる何かを見つける。これがあると安心する、眠れるという何かを探しましょう。

我が家の子どもたちは、タオルやぬいぐるみをベッドに持ち込むのが好きです。安心して眠れるからだそうです。

大人になっても、お気に入りのブランケットやぬいぐるみを手放したくない、洗濯もしたくない、というような方を「ブランケット症候群」、心理学用語では「安心毛布」、「ライナスの毛布」と呼ぶこともあります。(スヌーピーのライナス少年がいつも毛布をもっているからなんですよ。)

「症候群」とつくほどの場合には、生活に支障がある場合がなのでしょうが、そうでなければ、眠りにつく際の睡眠儀式として使えますね。

肌触りのいい上質のブランケット、パジャマ、枕。

それに加えて、ハーブやアロマを試してみるのはいかがですか?

1)ハーブティー

例えば、安眠ハーブとしておすすめできるものに、ジャーマンカモミールがあります。

カモミールティーとして飲むのでもいいですが、ホットミルクと割るのもおすすめ。牛乳中のトリプトファンは「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンや、「快眠ホルモン」というべきメラトニンの生成に役立ちます。セロトニンは、体内リズムを正常に保ったり、精神を安定させる働きがあります。メラトニンは、睡眠リズムを調節する働きがあります。メラトニンはセロトニンを原料としてできるホルモンです。どちらのホルモンも不眠症状に大きく関与するといわれています。

眠れない不安が強い場合には、リンデンとオレンジフラワーのブレンドティーもおすすめ。なんといっても香りが豊かで、不安でいっぱいな心を鎮めてくれるのに役立つでしょう。

2)精油

・アロマバス:
自分が心地よいと思う香りの精油をバスオイルに溶かし、ゆったり入浴します。適度な疲労感も生まれ、快眠につながります。

・香らせる:
寝具に心落ち着く香りをアロマスプレーで吹きかけて、布団に入ります。スプレーがなくても、ティッシュに1滴垂らして、枕元においても。眠る少し前に寝室にディフューザーで香らせてもいいですね。

今回のご相談には、上記のようなお話をかいつまんで、コンサルテーションしました。

自己判断で減量せず、まずは主治医に薬剤をいずれやめたい、としっかり訴える。

安心して眠れる習慣作りにつとめる。そのための、ハーブティーと精油の提案をしました。

お話をきいていて、不安が強いと感じましたので、マンダリンやベルガモットといった、抗不安作用や鎮静作用をもつ精油をすすめました。

この2つの精油はどちらも柑橘系ですが、エステル類の含有量が多いのが特徴。

どちらもとても良い香りと感じたようで、後ほど、ご購入されました。

薬を使用しながら、アロマやハーブを使えばいいんですよ、無理しないように、と。

ハーブやアロマが薬の減量に伴うつらい症状に寄り添ってくれます。

いずれ薬が減っていけばシメタもの。

睡眠に関するお話や、アロマやハーブの使い方は、「アロマとハーブで作る緑の薬箱」でもお話しています。

また、今回のように、具体的なお悩みがある場合に、アロマやハーブでできることを教えて欲しいという場合には、「薬剤師によるハーバルコンサルテーション」をご利用下さい。

レッスンを受講された場合には、お答えできることは時間の許す限りお答えしていますが、他の方の前で話しにくい、レッスンではなく相談したいという場合。コンサルテーションでは生活の中でどのようにとりいれるかということを複数提案し、実演したり、使ってみたいと思ったクラフトを作成して頂けます。

コンサルテーション例は、ご相談者の方に了承を得て、善意の元、ブログにて紹介させて頂いております。

同じようなお悩みの方のご参考になりますように。

※参考Webサイト

・ミクスonline「厚労省 承認用量でも漫然投与で依存性 ベンゾジアゼピン系薬等44成分の添付文書改訂指示」
厚労省 承認用量でも漫然投与で依存性 ベンゾジアゼピン系薬等44成分の添付文書改訂指示

(追記)2019.08.12

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