ハチミツに潜む危険
今年、2017年2月に、東京都内で、生後5ヶ月の男の子が、ハチミツを食べて、亡くなってしまう事故がありました。都の統計では、1986年以来初の事故だったそうです。
ご家族はハチミツで乳児ボツリヌス症が起こる可能性をご存知なかったそうで、事故が防げなかったことが悔やまれます。
乳児ボツリヌス症について
乳児ボツリヌス症は、ボツリヌス菌が腸管内で増えて、産生された毒素が体に吸収されることで発症します。便秘が長く続いたり、ミルクを飲む力が弱くなったり、泣き声が小さくなるといった筋肉が麻痺することによる症状が見られ、ひどくなれば呼吸筋が麻痺して呼吸障害を起こして死に至ります。
ボツリヌス菌とは
ボツリヌス菌 Clostridium botulinumは、グラム陽性偏性嫌気性桿菌で、これはグラム染色という菌を検出する手段で染まり(=グラム陽性)、繁殖するのに空気がないところを好む(=嫌気性)、細長い菌(=桿菌)という意味です。
(国立感染症研究所のWebより画像をお借りしています。)
通常、土の中などの空気が少ないところに住んでいて、環境があわないところに出ると、芽胞(がほう)といって殻のようなものにこもります。芽胞の状態で食べ物などに紛れます。その後、ボツリヌス菌が大好きな酸素が少ない環境に置かれると、芽胞が発芽して増殖を始め、ボツリヌス毒素を産生します。
ハチミツには、芽胞の状態でボツリヌス菌が存在しますが、通常、ヒトの腸内細菌叢(腸内フローラ)の働きで、芽胞は発芽せずに排泄されます。
しかし、乳児の場合は、腸内細菌叢がまだ未熟なので芽胞をうまく排除できず、腸内で発芽してしまうことがあります。そして、毒素が産生され、血中に移行して、乳児ボツリヌス症の発症となります。
乳児の腸内細菌叢は、分娩の際に母親の体液を舐めることや、母乳を介して育つと言われます。
成人でもボツリヌス食中毒になる
成人でボツリヌス食中毒になるのは、ボツリヌス菌の芽胞を摂取することではなく、すでに食べ物の中でも芽胞が発芽して、毒素が増えている場合が多いです。ボツリヌス菌や毒素が含まれる食品例は後述します。
ただし、腸の疾患、抗菌薬や抗癌剤の服用中など、腸内細菌叢の状態の良くない方では、腸内で芽胞が発芽し、乳児ボツリヌス症と同じ経過が起こることがあります。
ボツリヌス症の治療法
ボツリヌス菌毒素に対して、ウマ抗毒素製剤が投与されます。
ボツリヌス菌が含まれる食べ物
ボツリヌス菌汚染の可能性があると注意喚起されている食べ物は、ハチミツのほか、黒糖、井戸水など。
また、過去にボツリヌス食中毒が起きた例では、飯寿司、からしれんこんが有名です。
他にも、滅菌されていない瓶詰、缶詰などでもボツリヌス菌が存在する可能性がありますので、自家製のジャムや保存食などにも注意が必要です。
レトルトなどの密閉パックで買った時よりも膨らんでしまっていたり、異常な匂い(酪酸臭といわれます)がする場合には、決して食べないで下さい。
妊娠・授乳中の食事
妊娠・授乳中に、ボツリヌス菌の芽胞が含まれる食べ物を食べても、腸内細菌叢の働きで、ボツリヌス菌は芽胞のまま体外に排泄されますので、お子様にも影響はありません。
ただし、上記の通り、ボツリヌス毒素が含まれる可能性のある食べ物(密閉されたパックが膨らんでいる、自家製や滅菌されていない瓶詰め・缶詰など)には、妊娠・授乳中に関わらず、すべての人で注意が必要です。
ボツリヌス菌食中毒を防ぐ
ボツリヌス菌の芽胞は、菌の種類にもよりますが、120度4分の加熱で死滅し、毒素は85度5分の加熱で不活化されるそうです。これって、自宅での調理では芽胞を完全に死滅させるのは難しいですよね。電子レンジでの加熱は無効のようです。
消毒薬は、ボツリヌス菌が発芽して増殖している際には、70%エタノール水、0.1%次亜塩素酸水が有効ですが、芽胞には効果がありません。
念入りな手洗いと、流水でしっかりと流すことが重要です。食中毒の予防にはこれは共通しています。
ボツリヌス菌の芽胞をしっかりと体外に排泄するには、健康な腸内環境を得ることが大事。
日頃からハーブで腸内をサポートするとすれば、ダンディライオンがおすすめ。
水溶性食物繊維を多く含み、プレバイオティクスとして、腸内細菌のえさになり、腸内環境を整えるといわれています。
正しい知識で、食の安全を得ましょう。
参考資料:
・国立感染症研究所 ボツリヌス症
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/botulism121207.pdf
・国立感染症研究所 ボツリヌス症とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/7275-botulinum-intro.html
・横浜市衛生研究所 ボツリヌス症
http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/botulism1.html